式場・安置施設に電動棺リフターがないと
どうなる?現場のリスクとコスト
ご遺体の人力移乗は、労災・スタッフの離職・機会損失という見えにくいコストを生み続けます。葬儀の小規模化が進む今、そのコストは経営にどう響くのかを解説します。
結論:リフターなしの人力移乗は、労災・離職・機会損失という3つのコストを生み続けます。
ご遺体の移乗は、100〜150kgの重量物を人力で扱う作業です。電動棺リフターがない現場では、この作業を複数人がかりで、あるいは人手が足りないときは1人で無理に対応することになります。その結果として現れるのが、スタッフの労災(腰痛・怪我)、身体的負担を理由にした人材の定着しにくさ、そして人手が足りないときの対応の遅れという3つのコストです。これらは一度きりの出費ではなく、電動化しない限り毎日・毎回発生し続ける「見えにくいコスト」です。そしてこのコストは、いま業界が置かれている状況では、これまで以上に経営を圧迫する要因になりつつあります。
「件数は増えても儲からない」という構造変化
小規模な式場・安置施設の建設は、いま全国で活発に進んでいます。その背景には、消費者側の意識の変化があります。かつてのように大規模な斎場を構えていれば人が集まる時代は終わりつつあり、「人に迷惑をかけず、身内だけで小さく行いたい」という価値観が広がっています。
この変化は、葬儀の単価にもはっきり表れています。鎌倉新書「第6回お葬式に関する全国調査(2024年)」によれば、一般葬の費用相場が161.3万円であるのに対し、家族葬は105.7万円、一日葬は87.5万円、式を行わず火葬のみで済ませる直葬・火葬式は42.8万円と、簡素な形式ほど費用は大きく下がります。式を行わずご遺体をお預かりしてそのまま火葬場でのお別れのみで完結する火葬式(直葬)のようなケースも、選択肢の一つとして広がりを見せています。
一方で、高齢化の進行により葬儀件数そのものはこの20年で8割近く増加しており、ご遺体を安全に安置しておく必要のある件数は今後も増え続けると見られます。つまり、「件数は増えるが、1件あたりの利益は薄くなる」という構造変化が同時に進んでいるということです。これは経営者にとって見過ごせないリスクです。安置施設を新設しても、1件ごとの収益性が下がり続ける中では、件数をただこなすだけでは投資を回収できません。むしろ、薄利な案件を人手をかけて処理し続けることで、労災・離職・過剰人員といった「見えにくいコスト」がじわじわと利益を蝕んでいくことになります。
単価が下がる時代に生き残るためには、1件あたりの人的コストを下げ、少人数でも件数をさばける体制を作ることが避けて通れません。人力オペレーションのままでは、件数が増えるほど労災リスク・人件費・機会損失も比例して増えていき、「件数は伸びているのに手元に利益が残らない」という状態に陥りかねません。
人力移乗の現場で実際に何が起きるか
ご遺体をストレッチャーから棺台や冷蔵庫へ移乗する作業は、単に重いものを持ち上げるだけではありません。シーツにくるまれたご遺体を、足元から順番に少しずつ移動させながら、姿勢やご遺体の状態に配慮して丁寧に扱う必要があります。この作業は本来2人以上で行うことが望ましいものですが、現場では人手が足りず1人で対応せざるを得ない場面が日常的に発生します。
INPEACEの別製品(エアリースライド、ご遺体の移乗を補助するスライドボード)の利用者インタビューでも、現場スタッフの生の声が語られています。
「パワーがあんまり力がないので、こんなに力仕事だと思っていなかったです」
「自分の子供を抱っこしていたので力があったんですけど、ご遺体ってなるとまた重さが全然違ったので、びっくりです」
家族葬のウィル かわさき 大場未来様
家族葬のウィル かわさき 大場未来様へのインタビュー(INPEACE公式YouTubeチャンネル)
葬祭業は「落ち着いた、きれいな場所での仕事」というイメージを持たれがちですが、実際の現場は想像以上に体力を要する力仕事だということが、この声からも分かります。
労災リスクの実態
弊社の搬送現場でも、実際にこうしたリスクが顕在化した事例があります。
- ぎっくり腰の事例:朝方の忙しい時間帯、スタッフが1人でご遺体の安置作業を行おうとし、棺を持ち上げた際にぎっくり腰を発症した
- ヒヤリハットの事例:ストレッチャーから高さの合っていない棺台へ1人で移乗しようとした際にバランスを崩し、危険な状況になりかけたことがあった。幸い大事には至らなかったが、リフターが導入されるまでこうしたリスクのある状況は変わらなかった
これらは特別な現場だけの話ではありません。厚生労働省の労働災害統計によれば、「動作の反動・無理な動作」(重量物の持ち上げ等による腰痛等)を原因とする労働災害は令和3年時点で20,777件にのぼり、平成29年比で28.4%増加しています。また、休業4日以上の職業性疾病のうち、職場での腰痛は6割を占めるとされ、介護等の社会福祉施設ではその発生件数が大幅に増加傾向にあります。ご遺体の移乗という重量物を扱う作業も、性質としてはこれと同じカテゴリーに属します。
スタッフ定着率への影響
「力仕事であること」は、採用や定着にも影を落とします。明確に「腰痛が理由で退職した」という事例が特定できるわけではありませんが、現場では次のような傾向が見られます。
- 重い物を扱う仕事という印象から、女性の採用時に敬遠されやすい傾向がある
- 一方で女性スタッフの積極採用に取り組む葬儀社も増えており、実際に採用してみると「思ったより力のいる仕事だった」というギャップに直面するケースがある
- 「落ち着いた、きれいな場所での仕事」という葬祭業全体のイメージと、実際の力仕事の実態にはギャップがある
このギャップは、先述のエアリースライド利用者インタビューでの「こんなに力仕事だと思っていなかった」という声にも表れています。人手不足が深刻化する中、性別や体力を問わず多様な人材を確保・定着させられるかどうかは、業界にとって切実な課題です。電動化は、この身体的負担そのものを取り除くことで、採用・定着の間口を広げる効果も期待できます。
対応不可時の機会損失
リフターがないことによる影響は、労災リスクだけではありません。日常のオペレーションにも表れます。
安置作業そのものを「お断りする」ことは基本的にありませんが、対応が遅れる場面は起こり得ます。たとえば、スタッフが1人で待機している時間帯に急な面会の申し出があった場合、冷蔵庫からの棺の取り出しを1人で行えるかどうかは、その場の対応力を大きく左右します。移乗に2人以上必要な体制のままだと、面会対応そのものができなかったり、万一に備えて余分な人員を常時待機させておく必要が生じたりします。これは直接的な機会損失であると同時に、サービス品質の低下や、余計な人件費という形のコストにもつながります。
コストで見る「リフターなし」の総合コスト
ここまで見てきたリスクを整理すると、電動化しないことの「見えにくいコスト」は次のように積み上がります。
- 労災コスト:ぎっくり腰等の発生による休業・治療費・労災対応の手間
- 採用・定着コスト:力仕事というイメージによる採用の間口の狭さ、ギャップによる早期離職リスク
- 機会損失・過剰人員コスト:万一に備えた余分な人員の待機、対応の遅れによるサービス品質低下
候補Aの記事で紹介した株式会社鎌倉庵様の言葉を借りれば、電動棺リフターは「1人分の人件費を削減するもの」ではなく、「これらのコストが積み上がることを防ぐ保険」です。導入コストを、人を1人多く雇用し続けるコストと比較すれば、決して高い投資ではありません。
まとめ
- 小規模化・簡素化(家族葬・一日葬・直葬)が進み、1件あたりの葬儀単価は下がる一方、高齢化により件数そのものは増え続けている。「件数は増えても儲からない」構造変化が進んでいる
- 人力でのご遺体移乗は、100〜150kgの重量物を扱う本質的に身体負担の大きい作業
- 実際にぎっくり腰やヒヤリハットが発生しており、これは特殊な現場に限った話ではなく、全国的な労災統計(動作の反動・無理な動作によるものが年2万件超、職業性腰痛は職業性疾病の6割)とも一致する
- 「力仕事であること」は採用・定着のハードルにもなり得る。葬祭業のイメージと実態のギャップが、その一因になっている可能性がある
- リフターがなくても安置作業自体を断ることは少ないが、面会対応の遅れや余分な人員の待機といった形でコストが発生する
- 電動棺リフターは「人件費削減」ではなく「労災・離職・機会損失という見えにくいコストを防ぐ保険」として捉えるべき投資