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移乗ボードがない現場のリスク
腰痛・落下事故・離職という見えないコスト

ご遺体の移乗を人の手だけで続けることは、腰痛労災・落下事故・スタッフの早期離職という「見えないコスト」を、毎日・毎回生み続けます。そのリスクと、解消した先にある収益機会について解説します。

結論:移乗ボードなしの人力移乗は、腰痛・落下事故・離職という3つのコストを生み続けます。

ご遺体は、体格や状態によって40kgから150kg程度まで幅があり、決して軽いものではありません。この重さを、丁寧な扱いを求められる緊張感の中で、人の手だけで支えながら移乗する——これが、移乗ボードのような補助具がない現場で日常的に行われている作業です。人手が足りないときは1人で無理に対応することもあり、その結果として現れるのが、①スタッフの腰痛・労災、②移乗中の落下事故のリスク、③身体的負担を理由にした早期離職という3つのコストです。これらは一度きりの出費ではなく、補助具を導入しない限り毎日・毎回発生し続ける「見えにくいコスト」であり、放置すればするほど積み上がっていきます。そして、このコストを解消することは、単なる守りの投資ではなく、対応できる件数・人員配置の幅を広げ、より稼げる体制をつくることにも直結します。

「見えない体力仕事」を続けるとどうなるか

葬祭業は「落ち着いた、きれいな場所での仕事」というイメージを持たれがちですが、現場スタッフの実感は異なります。神奈川県川崎市の葬儀社「家族葬のウィル かわさき」で働く大場未来さんは、移乗ボード導入前の作業をこう振り返っています。

「手伝ってくれる職員さんがいるときは2人でよいしょって持ち上げてましたね。1人の時は足元を持ち上げて少しずらして、次に頭側を持ち上げて少しずらして……片側ずつ順序よく、徐々にずらしていくような形で何回も繰り返してご移乗していました。落としちゃうかもという不安があったので、とくに気を付けて行っていました」

家族葬のウィル かわさき 大場未来様

「落としちゃうかもという不安」を抱えながら、何度も繰り返し身体を使う——これが、移乗ボードのない現場で日常的に起きていることです。この不安と負担は、大場さん個人に限った話ではありません。

「移乗の瞬間が一番緊張する」

「思った以上に体力が必要で、心配になる」

「夜間に人数が揃わないと、正直ちょっと怖い」

「新人のころ、移乗だけは本当に怖かった」

コスト①:腰痛・労災という直接的コスト

ご遺体を人の手で支えながら移乗する作業は、労働災害の主要な原因の一つである重量物取り扱い作業と、身体への負荷という点で本質的に変わりません。厚生労働省の労働災害統計によれば、「動作の反動・無理な動作」(重量物の持ち上げ等による腰痛等)を原因とする労働災害は令和3年時点で20,777件にのぼり、平成29年比で28.4%増加しています。また、職場での腰痛は休業4日以上の職業性疾病のうち約6割を占める労働災害であり、介護等の社会福祉施設ではその発生件数が大幅に増加傾向にあります。

20,777件動作の反動・無理な動作による労働災害(令和3年)
28.4%増平成29年比の増加率
約6割職業性疾病に占める職場腰痛の割合

この課題を受け、厚生労働省は「職場における腰痛予防対策指針」において、腰部に著しく負担がかかる移乗介助等では、リフトやスライディングシート等の福祉用具を積極的に使用することとし、原則として人力による人の抱上げは行わせないことを明記しています。裏を返せば、この指針が想定するような移乗作業を福祉用具なしで続けている現場は、既に対策が確立している種類のリスクを、あえて取り続けているということでもあります。

一度腰痛で休業が発生すれば、当人の治療・休業だけでなく、シフトの穴を埋めるための他スタッフへの負荷集中、代替要員の確保コストなど、波及的な負担も発生します。

コスト②:落下事故という重大リスク

移乗作業に伴うもう一つのリスクが、ご遺体を落下させてしまう事故です。これは介護分野のデータからも裏付けられます。ある調査研究では、通所サービスにおける転倒・転落・滑落事故のうち、車いす移乗時に発生したものが15.2%を占め、車いす使用中の事故と合わせると全体の6割近くに達するとされています。移乗という動作そのものが、事故が起きやすい局面であることを示すデータです。

介護現場では「1件の重大事故の裏には29件の軽微な事故、300件のヒヤリハットが存在する」というハインリッヒの法則が、事故防止の基本的な考え方として広く共有されています。ご遺体の移乗においても同様に、日々の「落としちゃうかも」というヒヤリハットの積み重ねの先に、実際の落下事故という重大リスクが存在すると考えるべきです。ご遺体を落下させてしまうことは、単なる物損事故とは異なり、ご遺族の心情への配慮という観点からも、あってはならない事態です。人力での移乗を繰り返す限り、この重大リスクをゼロにすることはできません。

コスト③:早期離職という採用コスト

身体的な負担の大きさは、スタッフの定着にも影響します。介護業界の調査では、介護職員の退職理由として「心身の健康状態の不調」が上位に挙がることが知られており、身体的負担の大きい業務が離職の一因になり得ることが示唆されています。

葬祭業においても、この構造は無縁ではありません。新人スタッフが1年以内に離職した場合の損失額は、採用コスト・教育コスト・OJT期間中の生産性低下等を含めて、一般的に約100〜200万円といわれています。「想像以上の力仕事だった」というギャップから早期離職が発生すれば、そのたびにこのコストが発生し、また一から採用・教育をやり直すことになります。人手不足で有効求人倍率7.59倍(葬儀師・火葬係、令和6年12月時点)という環境下では、一度採用できた人材を身体的負担が理由で失うことの経営インパクトは、以前にも増して大きくなっています。

コストの解消は、稼げる体制づくりでもある

ここまでは「移乗ボードがないと何を失うか」という守りの視点で見てきましたが、裏を返せば、これらのリスクを解消することは、そのまま攻めの経営効果にもつながります。

対応可能件数の増加による売上機会の拡大

腰痛・労災の不安なく、1人でも安全に移乗対応できる体制が整えば、夜間・少人数のシフトでも受注を断らずに済むケースが増えます。人手不足を理由に依頼を断っていた分の売上機会を取りにいけるということです。

採用・教育コストの再投資

早期離職を防げれば、その分繰り返し発生していた100〜200万円規模の採用・教育コストが浮きます。この原資を、既存スタッフの待遇改善や新規採用の強化に回すことで、さらに定着率が高まるという好循環をつくれます。

安心して働ける環境が、接客品質・紹介につながる

「落としてしまうかもしれない」という緊張から解放されたスタッフは、ご遺族への対応によりゆとりを持てるようになります。現場の安心感は、接客品質やご遺族満足度の向上を通じて、紹介・リピートといった形で売上に還元されうる要素でもあります。

移乗ボードは、腰痛・事故・離職という「見えにくいコスト」を防ぐ保険であると同時に、対応力を底上げして「稼げる体制」に転換するための投資でもあります。

3つのコストの積み上がり

ここまで見てきたリスクを整理すると、移乗ボードを導入しないことの「見えにくいコスト」は、次のように積み上がります。

労災コスト

腰痛等の発生による休業・治療費・シフト対応の手間

事故リスク

落下事故という、金銭に換算できない重大リスクの継続的な内包

離職コスト

早期離職1件あたり100〜200万円規模の採用・教育コストの繰り返し

これらは、移乗ボードという一つの設備投資で、まとめて低減できるコストです。移乗ボードの役割は「人件費を削減するもの」ではなく、「これらのコストが積み上がることを防ぐ保険」であり、同時に対応可能件数を増やして売上機会を広げる投資として捉えるのが実態に近いといえます。

まとめ

  • 移乗ボードのない人力移乗は、腰痛・労災、落下事故、早期離職という3つのコストを生み続ける
  • 現場スタッフからは「落としちゃうかもという不安」「移乗の瞬間が一番緊張する」といった声が繰り返し聞かれ、これは特定の現場に限った話ではない
  • ご遺体を人の手で支えながら移乗する作業に伴う労働災害は年2万件超(動作の反動・無理な動作、令和3年)、職業性腰痛は職業性疾病の6割を占める
  • 介護分野のデータでは、移乗時の事故が転倒・転落事故全体の一定割合を占めており、移乗という動作自体が事故の起きやすい局面であることが分かる
  • 早期離職1件あたり100〜200万円規模のコストが、身体的負担を理由に繰り返し発生しうる
  • これらのコストを解消することは、対応可能件数の増加・採用コストの再投資・接客品質の向上という形で、売上機会を広げる「稼げる体制づくり」にもつながる
  • 移乗ボードは「人件費削減」ではなく「見えにくいコストを防ぎ、稼げる体制をつくる投資」として捉えるべき

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